「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る元介護職兼介護支援専門員の日常

相次ぐ救急搬送 家族の葛藤

 90歳目前のすゆさんは息子様にとても大切にされている。

 これまでも「面会したいけど窓越しでは余計に悲しいから面会は結構です」と言われた事がある。

 最近すゆさんは嚥下が良くない。よくむせる。

 今月になって刻み食から極刻み食へ変更になり、食べ物にも飲み物にもとろみをつけて提供している。

 お盆を過ぎた日、事務所で仕事をしていると、介護職員が来た。

「すゆさんのSPO2が70台。どうしよう」

 急ぎ居室へ行ってみるとすゆさんは静かに寝ていた。声をかけると目を開け返事をする。

 朝食後に息をする度ヒューヒュー聞こえるようで気になったので居室で横になって貰った。その時の血圧と体温、血中酸素濃度は正常値だった。30分経って様子を見に行くと小さくヒューヒュー言っている。血圧、体温は正常値だが血中酸素濃度が90台~70台を行き来する。

 主治医に連絡すると、救急要請をするよう指示が出た。

 搬送時にも酸素マスクをして運ばれて行った。

 心不全。心臓が少し大きくなっているし、肺に水が溜まっている。

 すゆさんは苦しかったんだ。病院で治療して楽になってほしい、と私達職員は思った。

 すゆさんは入院になり、私は介護サマリーを作成して内服薬や肌着類、歯ブラシ等を搬送先の病院へ届けた。その時ナースステーション横で一人の男性が座って看護師から説明を受けていた。息子様だった。

 入院手続きを終えた息子様が、病院からの帰りに施設に寄って、すゆさんが病着に着替えて脱いだ洋服や保険証等を持って来られた。

「あんな元気な母親を久しぶりに見たんですよ。『トイレに連れていけ』って、すごく騒いで、結局連れて行ってもらえず今はおむつを履かされて、余計に可愛そうで。肺に水が溜まってるからそりゃあ治療も大事だろうけど、僕はもう、あのまま逝ってしまった方が良かったんじゃないかって・・」

 すみません・・救急車呼んじゃいました・・

 いやいや・・

 こんな時何と答えたらいいのだろう。

 息子様の複雑な思いが伝わって来る。

 確かに、すゆさんは失禁がほとんど無くトイレで排泄する。

 そういえば以前誰かが「医療に生かされてしまうのも辛い」と言ったのを思い出した。告別式で喪主が故人の看病を終えて絞り出した言葉だった。

 医学の進歩により寿命は延びた。

 健康寿命が延びるのなら良いが、介護が必要な期間も伸びた。

 その間にいくつか選択肢が与えられ、考える時間も迷う材料もある。

 生きる事に寄り添う事の難しさを痛切に感じる。

 家族の葛藤も見える。

 この息子様の言葉を今日の支援記録に残すかどうかホーム長に相談したのだが、

「うーん・・天然さんの胸の内に記録しといて。記事に残す訳にはいかないだろう」との事だった。本人と家族と職員を取り持つ立場や施設としての対応等難しさを感じる。心あるケアマネジャーでいたいと思う反面、感情移入して病んでしまう場合もある。

 息子様の表情や言葉がいつまでも私の心の中にくすぶっている。