「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

遠方からの送別

 60代前半男性の火葬があった。

 届け出住所ははるか遠い県外で、見送り、収骨共に遠方から来られた感じの大きめの荷物を抱えた女性一人だった。

 私が収骨を担当した。

 足元に焼けた後のベルトの金具らしいものや半月型の固いものが一対あり、安全靴の一部かと思われた。その女性が「これ何?」と言われるのでそう答えると、女性はゆっくり話し始めた。

 ああ、なるほど。これが入ってたの。

 出張先の職場から貰った袋をそのまま棺に入れたんです。

 よく働いたねえ。

 19歳で今の会社に就職して、ずーっと、働き詰めだった。

 ここへ出張に来て、休憩時間に寝てるのかと思ったら、息をしてなかったそうで。

 急に電話がきて、びっくりしたんですよ。

 やっと、休めるねぇ。

 よく働いたからねぇ。

 一緒に帰ろう。

 ・・・

 誰かや何かを恨むでもなく、優しく語り掛けるように話して下さった。

 斎場は市区町村が管轄しており、故人又は届出人の現住所の市区町村に死亡届を提出、もしくは地域外から希望地に届け出、料金を支払って火葬される。「行旅死亡人」の死亡場所もまた、その斎場で火葬出来ることになっている。今回の故人様はこの「行旅死亡人」に該当する。

 大きな荷物に加え、収骨壺を大切に抱えて、

「お世話になりました」とその女性は言った。

「気を付けて、お帰り下さい」と私は見送った。