「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

「ガラス越し面会では余計に悲しいから面会は結構です」

 コロナ禍で面会が制限されている。 

 完全予約制で1日3組15分以内。

 施設入口の2重扉の内側のガラス扉を隔てる。

 ただでさえ耳が遠めの高齢者なので、ガラス扉を挟んで顔を見ながら電話で話したりする。

 認知症高齢者の中にはガラス越しでの面会が理解出来ずにガラスを壊そうとする方もいて、説明して納得したようでも数分もしないうちに同じ行為と説明を繰り返す場合もある。

 コロナ禍になってからは家族へ書類の内容は電話で説明し受け渡しは郵送で行っている。

 

 90代のすゆさんは難聴気味だが傍でハッキリ話せば聞こえるし理解も出来る。

 支援計画の切り替え時期になり新たに計画書を作成するにあたって、長男様に電話で話をした。こちらから書類を送付し返信用封筒を同封しますと伝えると、便の時に持って来るから返信用封筒は要らないと言われた。ならば来苑の際に面会出来るよう予約を勧めると

「ガラス越し面会では余計に悲しいから面会は結構です」と言われた。

 今すゆさんは傍にいるからこの電話で話しますかと勧めると

「うーん、耳が遠いから・・」と言いながらも替わってみた。

 やはりあまり聞こえない様子だった。

 入居前に使っていた補聴器があるから書類と一緒に持って来ると言われた。入居の際には紛失を恐れて持って来なかった。

 息子様の気持ちが伝わってくる。

 息子様も同業の施設関係者なので感染対策は心得ておられる。

 実は前回も書類をお持ち下さる便で生活用品を持って来るからとの事で返信用封筒は要らないと言われた。たまたま来られたのが週末の夕方遅い時間で周囲に人気がなかったのでこっそりすゆさんを車椅子で玄関にお連れしガラス扉を開けた。息子様は思いがけず会えた事を喜ばれ、わずか数分だったが手を握ったり顔を撫でたり言葉を交わし、高揚した様子で手を振って帰路につかれた。

 体格も良く、きちんと整えられた容姿からは想像も出来ないほど、しゃがんでお母様と目を合わせ嬉しさ全開に顔をくしゃくしゃにして溜まっていた気持ちを吐き出すように時間を惜しむように触りまくり声をかけ続ける姿に、私は考えさせられるものがあった。

 すゆさんは慈しんで息子様を育てられたに違いない。

 すゆさんが元気なうちに、関わらせてあげたい。

 私に出来る事は?

 自分の子育てが、将来自分に返ってくる時が来るかもしれないとも思う。