「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

納車記念 Wステーキ

 息子の新車が納車された。

 偶然見た新車商談会の広告を息子にも見せたのは私だが、私が仕事へ行っているうちに息子は一人でディーラーへ商談に行って試乗や購入契約をし、手続きや印鑑登録等もして必要な書類を揃え、払い込みまで何もかもを一人でやってのけた。

 就職して1年半。

 自分の車を欲しがっていた。

 お金を貯めて即金で購入している。

 見上げた行動力だ。

 お祝いに何が食べたいかと尋ねると「肉。牛のステーキがいい」と言う。

 一度だけ何かの祭りに出店していた時に見た肉屋さんに、仕事帰りに立ち寄ってみた。

 こぢんまりした店に他に客はおらず、私一人。

 形成されてあとは焼くだけのハンバーグや、揚げるだけのカツ、ソーセージやハム等、色々陳列してあったが私が求めるのは生の国産牛ステーキ一択!

 パック詰めして置いてあったのは糸島牛のサーロインステーキとリブロースステーキ。どちらも100g1500円を超える美しい霜降り肉だった。日頃ステーキなんて買えないので相場ではいくら位するものなのか、他の牛肉はどういうものなのかも分からない。他店を見て考える事も頭をよぎりはしたが、仕事帰りだったこともあり、早く買って帰ることにしてそれぞれ一番大きい物を1パックずつ購入した。

 副菜のコンソメ煮やサラダを先に用意して息子の帰りを待つ。

 主菜のステーキは食べる直前に「焼き加減はミディアムで」と確認して焼き始めた。失敗は許されない。肉と火につきっきりで焼き加減を調節する。

 テーブルにディーラーで貰ったフラワーアレンジメントを置き、食器棚から特別な皿を出し、ビール用に日頃食器棚をにぎわしているボヘミアグラスを置くとお祝いらしいあつらえになった。

 珍しくテレビを点けず、静かに時間をかけて味わって食べる。

息子「高い肉って、本当にちゃんと美味しいんじゃね。なんか幸せ感じる」

私 「ほんとね」・・・ごめん、これまで安い肉しか買えなかったもんね。

 食べ終わって手を合わせ、

息子「ごちそうさまでした。とても幸せな時間でした」

私 「こちらこそ、あやかって美味しい物を一緒にいただきました」

 照れもせず言葉にしてくれるので私もきちんと向き合って言葉を返す。

 寝る前には

息子「おやすみ。今日はありがとね」

私 「うん。おやすみ」・・・ツンデレよなぁ!!

 

 翌日職場にて。

 前日に肉を買う店を相談していたので、無事に買えたかと尋ねられた。

 お陰様で買えて美味しく食べたと伝えると、職場の同僚・・と言っても息子より一歳年上の男性が、

「いいなあ。俺も車買ったとき親にお祝いしてほしかったなあ」と言った。

 こんな話をしながら掃除や片付け等を行う。

 家庭の事も話せて、お互いを理解して事情をくむ雰囲気がある。

 

 その2日後、クール宅急便で道産サーロインステーキが届いた。

 ディーラーで車を購入した際のカタログギフトで息子が選んだものだった。

 カタログギフトって、意外と早く届くものなのね。

 北と南のステーキ食べ比べ⁉

 暫くは我が家の冷凍庫で出番を待ってもらうことにした。