「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

収骨後の骨箱と風呂敷はそのままで

 火葬場では霊柩車から降ろされたお棺の蓋を開けるのは炉前で最後のお別れをするときに限っている。その際も中に入っている物を改めて見る事も取り出す事もしないので、お棺にご遺体以外に何を入れてあるのかは斎場職員には分からない。

 火葬を終えて収骨をする際に

「これって何ですか?」

「この色って何ですか?」と遺族に問われる事が多いのだが

「お棺に入れられた物が溶けたもの(の色)が出たのでしょう」としか説明しようが無い。

 ご遺体と共に高温で焼かれて溶けたらしいものがお骨にくっついて、火葬後に残ったお骨まで破損するケースが多いので、お棺に物を入れる際には「お棺に入れてはいけないもの」を必ず確認してほしい。

 

 最近の終活ブームによるものか「故人本人の希望で」というのを聞く。

 個性的な焼き物の壺を収骨に持って来られた事があり、

「素敵なお壺ですね」と声をかけると遺族から

「本人が作ったんです」との答えが返ってきた。

 

 以前介護の仕事をしていた頃に、海外の高齢者施設で「自分のお棺を制作する」取り組みを見た事を思い出した。

 施設に入所又は通う高齢者は様々な経歴を持つ。

 設計を得意とする人、建築やDIYを得意とする人、絵を描く、色を塗る等、各々出来る事をして、皆で皆のお棺を制作する。一人一人思い思いの丸や多角形のものもあった。実際にお棺として使用出来るかは別として、どんな形にするかから始め色や形、装飾も自分自身が何が好きか、どうしたいかを問う事から始まる。他者を助け、助けられながら生き生きと関わる制作途中の様子や、完成後に色鮮やかで個性豊かな自身のお棺に入って満面の笑みの写真が紹介された。高齢者施設でのレクリエーションとは言い切れない一大プロジェクトである。

 

 収骨を終えた遺族から質問を受ける事があった。

「この箱って、どうしたらいいですか?」

「帰って自宅に作ってもらった祭壇に置く時は包んである布は外すんですか?」

 

 葬儀社で骨壺を入れる骨箱と風呂敷がセットで用意される。

 火葬を終え収骨が済むとその骨壺を骨箱に入れ風呂敷に包んで持ち帰る。

 四十九日の法要を終えて実際にお墓やお寺に納骨する際には火葬場から持ち帰る埋葬許可証を納骨する事務所に提出してお骨の入った骨壺だけを納める。

 それまでは自宅に簡易的に作られた祭壇に風呂敷に包んだ状態で置いておかれて構わない。

 骨壺を納めた後の骨箱と風呂敷については葬儀社で購入する際に聞いてみると良い。要らなければ引き取ると言われる葬儀社もあれば、ご自由にお使い下さいと言われる場合もある。丈夫な箱なので故人様の遺品を入れて保管する事も出来るだろう。斎場では持って来られた骨壺を骨箱に入れて風呂敷に包んでお返しする事しかしていない。

 私自身も遺族に尋ねれて初めて気付いたり疑問に思う事が少なくない。

 分からない事を確認してからお答えする為に少しお待ちいただく時もある。

 未だ勉強の日々。

 今は四十九日の法要まで自宅にずっと置かれる骨壺を風呂敷で早く美しく包めるよう毎回心掛けている。