「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

勤務最終日の複雑な心境

 最後の勤務を終えた。

 最終日は日勤で事務だった。業務の引継ぎをし、入居者家族に挨拶の電話をし、関わった職員に挨拶をして、ロッカーを片付けて、残りの時間はフロアで入居者と関わろうと思った。

 夕食を終えてゆっくりしている入居者一人一人に

「今日で退職します。お世話になりました」と伝えると、反応は色々だった。

「ああ、はい・・」という感じだったり。

「まあ、どうして? お嫁に行くの?」その発想にはこちらが驚いた。私がどんなふうに見えているんだろう。

「そう。寂しいわねえ。時々遊びにいらっしゃい」と普通に返してくれる入居者にはやっぱりちゃんと挨拶してよかったと思った。

 

 102歳になったりきさんには「よく聞こえない」と言われてメモ紙に「今日で退職します。お世話になりました」と書いて見せた。りきさんは私の方に少し向き直り、

「あらあ、残念ねえ。お嫁にいくの?」と言う。この反応は2人目なので、退職=寿退社のイメージなのかと感じた。仕事で引き取り手がありまして、と答えると

「ああ、そうね。ここは、ちょっと、難しい。私はそう思うよ」とゆっくりハッキリ真面目な顔で言う。日頃から職員に要望や不満をはっきり告げる性格だ。

「それじゃ、お祝いしてあげなくちゃね。もう少し居なさいよ。ね、あと2,3日居なさいよ」「この紙ちょうだい」と言われて、退職しますと書いた紙を渡した。

 職員が一連の様子を見ていて、りきさんのしっかりした受け答えに感心していた。

 入居者は全員認知症の診断を受けているのだが、何かのスイッチが入ってパッチリ覚醒して饒舌になったり、本当に認知症なんだろうかと思う時がある。

 

 パソコンの中の私のファイルを削除した。

 机の引き出しやロッカーに入れていた個人情報の紙をシュレッダーにかけると、満杯2回分もあった。大半はここ一年のものだった。慣れない事務作業が増えて覚える事柄が膨大だった。勤怠管理や組織本部の事務は書類が多く、私が自分で作った覚書もあって、シュレッダーをかけながらその時の心境や状況が思い出された。

 

「次の所に行ってみて、いや、これは・・と思ったら戻って来てね」

「そうそう。大歓迎」と、現場の管理者とホーム長。

 あらためてここは私の居場所だったんだと思える。

 自分で決めたとはいえ仕事を変えるのは正直不安が強いので、そう言って貰えるのは嬉しい。

 このブログ「介護職の日常」のタイトルを変えなくちゃ。