「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

認知症入居者による夜勤の恐怖

 大正生まれのだたさんは短期記憶低下、思い込みからの暴言暴力が顕著になっており、認知機能の低下が進んでいると思われる。

 特に夜間トイレから出ていきなり「殺す気か!」と職員に暴力をふるったり、他入居者の居室を開けて

「お前、寝てる場合か! 起きろ! こら!」と殴りかかり、間に入った職員が無抵抗に殴られる事が頻発している。

 毎日の定時報告で主治医に伝えると

「続くようなら考えよう」と言われた。

 ・・・続いてます・・・夜勤、恐怖です・・・

 もしも入居者が別の入居者を殴ったら退去になりかねない。

 娘様は安定剤等の薬が必要なら飲ませてと言われたのだが、主治医が処方した漢方では効かず、薬では立ち上がりや歩行が不安定になったために継続服用出来なかった。

 

 そして夜勤の日がやってきた。

 私の夜勤で暴言、暴力があったら隣ユニットの夜勤職員に助けを求め、翌日の主治医への定時報告で詳細に伝えるつもりだったのだが、幸いにして徘徊や意味不明発言はあるものの、機嫌は良く、大事には至らなかった。

 

 夜中、事務をしていると居室から声がする。80代のかよさんだった。

かよさん「たからくじがなくなった。どこへ行ったんじゃろう」

 私  「たからくじ買ったん?いつ?」

かよさん「今日。それが見当たらんのじゃ」

 私  「夢見た? いい夢ね。当たったら教えて」

・・・少し話をして、かよさんは寝た。そしてまた呼ぶ声。

かよさん「おふだが落ちた。今この下へ落ちた」

 私  「私には見えんのですが。どこのおふだ?」

かよさん「ありゃあ、どこかの・・」

・・・また少し話をして、かよさんは寝た。朝も早い時間に夢で目覚めてしまった。

 そして朝食後、フロアの席に座ったまま撃沈。

・・・夜寝ないから・・・

 

 今は車椅子が必須になったかよさんだが、数年前までは自転車で買い物やパチンコに出かけていたと聞いていた。宝くじも買ってたんだろう。その夢を、かよさんは今も買い続けている。