「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

「どんな生活してるの?」入居者家族の心配

 90代のらかさんは2か月前にグループホームから特別養護老人ホームへ移った。

 要介護4で車椅子生活。認知症が進んで言葉の理解が難しく、グループホームに居ながら、同建物内の特養に入居申し込みをしていた。順番が来たと知らせがあった時、長男夫婦はせっかくグループホームでの生活に慣れたのにと迷う気持ちもあったようだが、今がタイミングかと決断された。同法人内だしご家族の家から近い事もその理由だと思う。グループホームの入居前面談で初めてお会いしてから2年余り。支援計画を作成しながら本人とご家族と良い関係を築けていた。

 特養へ移る日、入居時担当者会議に来られた嫁様は少々緊張していたようで、私が玄関にお迎えすると

「あああ、久しぶり!」と私の手を握って言われ、環境が変わって心細いのは本人よりご家族の方かもしれないと思ったのだった。コロナで面会を制限されるようになってから電話や封書でやり取りはしていたが、直接お会いするのは数か月ぶりだった。

 今は緊急事態宣言が解除され、予約制で限られた短い時間だが面会が出来る。

 特養に入居して2か月近くになる頃、嫁様が面会に来られた日、私が玄関にお迎えに出ると、いきなり私の腕を取って小声で言われた。

「この前義妹が来た時『帰る! 連れて帰って!』としきりに言ったらしいんだけど、どういう事? どんな生活してるの? 他の人に聞けないから、あなたにしか」と。

 グループホームでの生活に関しては、コロナ前には毎日のように面会に来られていたので職員とも他入居者様とも会話され、雰囲気も分かっておられたのだが、緊急事態宣言が発令されてからは居室に入る事はもちろん、フロアでの様子もうかがい知る事は出来なくなった。まして特養に引っ越して間もない義母様にそう訴えられると、不安になるのも無理はない。

 私はこれから気を付けて様子をみます、と答えた。

 同じ建物内の階違いで特養とグループホームがある。現在私は特養を母体とする事業所本部に在籍しているので情報も入って来る。実際に歩いて本人の様子を見に行く事も出来る。

 グループホームのホーム長にはその日のうちに相談した。

 家庭的な雰囲気のグループホームと、ザ・施設との違いかもね。どうしたらいいとかじゃなく、そう言われた事だけを、特養の相談員に伝えてみるかね。今週は相談員は忙しいから、来週にでも。と、ホーム長に助言を受けた。

 らかさんがグループホームを退居して、私の役割は終わりではなかった。

 逆に難しい立ち位置になっている。

 らかさんはこの一週間、発熱したり皮膚に炎症が出たりして、特養のケアマネジャーが嫁様に何度も電話している。特養には看護師と管理栄養士が常駐しており、手厚い。

 でも生活者としてらかさんは、きっと、そういう事を求めているのではない。

 もっとたくさん話して、笑いたいだろうし、出来る事をしたいだろうし、一日一日を何かをして過ごしたいのだと思う。

 かまってないわけでも、話してないわけでもないのだろうが、職員に余裕が無い。

 グループホームから特養へ移るケースはこれまでもあった。

 移った後「そっちはもう退居したんだからこっちでやるよ」と特養のケアマネや相談員から言われた事もあり、あまり関わらないようにしている。

 そこでのやり方があるのだろうし、対応にも一長一短ある。

 認知症でなくとも引っ越すと勝手がわからず不安になる。人にも環境にも慣れるのに時間を要するものだ。

 相談員に話をどう切り出すべきか。

 法人内の関係を保ちつつ嫁様の気持ちに応えるには。

 重要なミッションだ。