「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

いたちごっこ 生きる事は命がけ

 施設のあちこちに燕が毎年巣を作り、卵を産んで子育てし、巣立って行く。

 玄関や駐車場等、巣を作って欲しくない所にはあらかじめ対策をしている。

 ユニットを隔てるテラスに巣作りをする時から、入居者達はずっと見守ってきた。

「巣が出来たね」

「子供が顔を出してる」

「今日は〇羽に増えてる」

「親は忙しいね」

 他階からも散歩がてら見に行き、楽しみにしていた。

 ある日、バサッバサッと聞きなれない羽音がし、見るとカラスが巣にくちばしを入れたかと思うとヒナをくわえて上を向き、丸のみした。

 一瞬の出来事だった。

 居合わせた人は顔を見合わせ、暫く口がきけなかった。

 数日して、巣が壊れているのが発見された。

 ヒナ達も居ない。

 周囲を飛び回る親燕の様子を見ながら、入居者も職員も

「かわいそうに・・・」

 

 ある朝出勤すると、宿直さんがその日早朝に起こされたと言った。

 別のテラスに作っている燕の巣を狙ってイタチが迷い込み、出られなくなって騒いでいたらしい。

 階上から雨どいを伝って降りて来たが、自力で上がれなくなっている様子だったので、長い竿を立てかけると、それを伝って上がり、帰って行ったという。

 その日の昼頃、同じテラスにまたイタチがいるという情報を受けた。

 イタチの姿も顔もまじまじ見たのは初めてだった。

 日陰に在り得ない程伸びて寝そべっていた。

「長っっ!! イタチって、あんな長い?」

 日中のテラスは暑く、帰れずにヘタっている様子だった。

 庭仕事や備品の管理等を担ってくれている70歳代男性職員がヘタっているイタチを捕まえようとしたが、思いの外イタチが暴れて、職員も危ないので、市役所に電話して状況を説明した。

 30分程して市役所から男性職員が2人、網を持って来て、大捕り物が始まった。

 イタチも必死で逃げ回り、目をむき、牙をむいて威嚇する。

 網に捕まえたと思いきや、スルッと出た。

 見た目より体を細く出来るようだ。

 再度チャレンジ。

 ギャラリーが増える。

 網に捕まえた上で段ボールに入れて、無事捕獲出来た時には拍手が起こった。

 後に施設長に事の一部始終を報告した際、

「そのイタチさんはどうなるの? 山へ帰してあげるの? それとも襟巻になるの?」

 ・・・そういえば、その後このイタチがどうなるのかは説明を受けなかった。

 みんな、命がけで生きてる。

 時に動物の世界は残酷だ。

 数日して、またテラスにイタチの糞らしき物が発見された。

 仲間がいたのか・・・

 燕の巣は守られたが、ヒナの数が減っていると聞く。

 巣立ったのならいいのだが。