「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

電話で心の動きが伝わる

 私の愛車に15年目の車検の案内状が届いた。

 タイヤ2本その他劣化による交換部品を含み18万円位になる。

 そうして車検を済ませたとしてもこの車はどこかに不具合が出てくる可能性があるという理由で、車検を受けない選択肢を提示された。

 新車、中古車の購入相談をした。

 私ではなく息子の車だ。

 社会人になって1年半の息子は、ミニクーパーが欲しくてお金を貯めていた。

 新車にはとても手が届かない。でもローンは組みたくない。商談会の広告が入った時に店に出向くと店頭にあった8年落ちの中古車を紹介された。外観もだが内装もおしゃれで、前の持ち主が手間もお金もかけて大切に乗っていた事が分かる。試乗をしたらますます気に入り、帰宅後もカタログと見積書を度々開いて見ていた。220万円。納車の頃には9年落ちになっている。これから何年乗れるだろうか。車検の度に15万円かかると聞き、決め兼ねていた。

 おしゃれなその中古車はいつしか店頭から無くなり、息子は「売れたんかな」と、ようやく気持ちの整理がついたようだった。

 その後暫く車の話はしなかったが、ある日息子が「スイフトってどうかね?」と聞いてきた。

 それからまた数か月になる。

 私のこの車検見積が、購入を加速させるきっかけになった。

 車検見積を受けて○○カーズで購入相談の予約をしたのとは別に、ちょうどその週末にディーラーの新車見積、試乗、相談フェアの大きな新聞広告が入っていた。良いタイミングなので見に行くよう息子に話して私は出勤した。日曜日の昼間、息子は独りでディーラーに出向き、カタログを貰ってきていた。

 日曜日の夕方、私の仕事終わりに○○カーズへ息子を伴ってちょうど店にあるスイフトの説明を受けに行った。

 現在モデルチェンジ前で生産中止になっており、市場にあまりない。

 新車も中古車も希望の色は見つからず、違う色なら数日後にあるオークションにかけられる予定があるとの事で、息子は迷いながらもお願いしていた。希望のグレードや色、アクセサリ等も話し、探す範囲を全国に広げ、このオークション以外にも今後どこかで車を見つけたら息子に直接知らせて下さると言われ、営業氏と息子はLINEを交換した。○○カーズは月曜日が定休日なので、次の情報は火曜日以降になる。

 翌日月曜日、仕事から帰るなり息子はディーラーから電話があったと言って一人で出て行った。それから1時間位経って息子から電話がきた。

息子「遠いけど○○県に一台だけ俺が欲しい色のがあるって。新車で展示してあったやつで、グレードは一つ下がるけど昨日見積もったのより50万くらい安い。どうしよう」

私 「おぉ、あった!? で、グレード下がったら何が変わる?」

息子「ライトがLEDじゃないけどまあいいかな。ナビとカメラはついてるのでいいし、バックカメラ要らんし。ETCを付けるくらいかな」

私 「自分が納得出来るならいいと思うよ」

息子「明日と明後日ここの店休みなんて。3日後にこの車がまだある保証はないよね。ああ迷う。どうしよう」

私 「迷うね」

 それから20分近く電話で話し、

息子「やっぱ欲しい。・・決めてもええかね?」

私 「決める?」

息子「うーん、・・ああ、・・うん、・・買おう」

 電話の向こうで考え、悩み、自身の中で納得して大きな決断をするまでの心の動きが伝わって来た。

 1時間位経って契約書を携えて帰って来た。

息子「もしかしてもっと値切っても良かったんかな?」と言う。

私 「私なら『もう一声いただけませんか』って言う所だけど、息子君は嫌かなと思ってさっきの電話では言わんかったけど。言えば良かった?」

息子「ほー・・『もう一声』ね・・」と真顔で頷いていた。

私 「書類揃えて最終契約確認の時に言ってみるといい」

息子「そうじゃね。『もう一声』ね」

 少し知恵をつけてしまった。

 車買うのに全然値切らん客がここにいた。

 その晩息子は「眠たくならん」と興奮気味だった。

 車庫証明や印鑑証明等、ディーラーで言われた書類を自分で揃え、貯めていた自身の貯蓄と私が息子名義で貯めていたものとを合算して即金で支払う準備も、息子自身でしている。

「色々ありがとうね」と息子は言った。

 日頃ツンデレな息子にたじたじの母親である。