「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

入居者家族にハグされる介護職って・・・

 昨日は事務の為の一日だったはずなのに、結局作成していたケアプラン一人分が途中でタイムアップになってしまった。通常なら少々残業して終了させていただろうが、昨日は息子を学校に迎えに行く約束をしており、こんな時くらい時間通りに退勤しようと思ったのだった。

 神様はいると思う。

 夜中にふと目が覚め、ケアプランを送る家族と打ち合わせた内容が気になった。

「明日電話しなくちゃ」と思ったら眠れなくなり、2時だったが起きて忘れないようにメモする。

 そうするとすっかり目が覚めて、4時を過ぎた頃、寝ても中途半端になり、息子の弁当を作ってから再び布団に入った。

 朝、息子を送り出した後、昨日途中だったケアプランを完成させて発送したい、家族に電話するのは昼休みくらいの時間がいいかな・・・とか考えて職場へ向かった。30分位で終わらせて帰るつもりだった。

 

 職場前の駐車場に着いてみると、入居者の嫁様の車が停まっている。今日は月に一度の受診の日だ。階段を上がり職場の階のドアを開けた時に入居者様と嫁様がエレベーターに乗るところだった。一緒に乗って最近の様子を伝えながら階下に降り、車を見送った。

 そして施設に再び入ろうとすると、昨日入居申し込みに来た方がちょうど車で再訪され、私を指名して昨日お持ちでなかった書類を持参してくださった。私服だと私だとは分からない様子だった。昨日この施設を案内した印象を尋ねると、悪くはなかったようだ。

 そしてようやく職場の事務所に入って抱えていた荷物を降ろすとすぐ日勤の職員が来た。機械浴の使用を巡って共有する施設とケンカ腰になっているという。

「今日はもう機械浴には行かん! あんなに言われてまで行かんでいい!」

遅番の職員が怒っているのが聞こえた。

 ・・・ちょっと、話して来るわ・・・

 案の定、相手も機関銃のように言いたい事を言い放ち、

「スタッフ間で情報共有出来てないんじゃないの?」と情報共有ノートをめくりながら言い、「あ、自分で書いてた」と誤りに気付いたらしい。他施設のベテラン職員の機関銃攻撃に下手に出ていたこちらに対し、バツが悪そうに「もういい」と言う。とりあえず解決した。・・・もういい?・・・

 ・・・やれやれ・・・

 職場に戻ると外線がかかり、電話を取った早番の職員が

「分からないので出て下さい」と言う。明日月に一度の散髪の日だが、散髪希望者のファックスが届いていないと訪問理美容さんからの連絡だった。遅くなって申し訳ありませんとファックスを流す。

 

 今日はリーダーも管理者も不在で、ホーム長が一人で右往左往していた。

 でもとにかく私はケアプランを作りに来たの!

 だから作る。封をしてようやく落ち着いた。

 昼に入居者家族に電話して「帰ります」

 30分のつもりが、2時間経っていた。

 こんな風に勝手に来て仕事しても手当は算定されない。

 でも来て良かった。逆に来なければどうなっていたんだろう。

 

 施設前の駐車場に停めていた車に乗り込もうとした時、2時間前に受診に見送った嫁様も、入居者の受診を終えて帰ろうとしている所だったが、

「さっきが帰りじゃなかったんですか?」と近づいて来られた。荷物を抱えて施設前で出会ったので夜勤明けと思われていたらしい。

私「いえ、今日は休みなので私を見なかった事にして下さい。一銭も出ないんです」

嫁様「え~!そんな・・働き方改革とか言ってる時に・・悲しすぎますね・・」

と優しくハグされた。

 驚いた。

 でも嬉しかった。

 この2時間の私を全部知っているかのようで、慰められた。

 入居の日から何度もお会いしているが、立場上節度も距離も保っているつもりだった。

 運転して帰る道々、救われる思いだった。

 やっぱり、神様はいると思う。