「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

責任感が強い為に心を病む

 誰もが疲れている。

 ここ3か月の間に入退院を繰り返し3度目の入院になったたとさんが、今回の入院を機に退去する事になった。

 最近の様子から、我が施設よりも医療との関わりがある施設への転居を予定していたので、近々退去になる予定ではあった。

 体調が悪いから受診し、そのまま入院が決まったのだが、同行した看護師は私と同じく今のグループホームでは非常勤で、その日は休日出勤して受診に同行していた。その日に限らず、ホームの入居者は状態の変化に予定は無く、看護師も、計画作成担当者の私も、柔軟な対応が求められる。ホームの中で私達に代わってこの業務が出来る職員が配置されていない為、必要に応じてホームの業務に入る事になっているのだが、勤務表上ホームに割り当てられた日以外は私は本部、看護師は特養での仕事があり、そこを抜けるとなると他職員に影響が及ぶわけで、その必要度と緊急性を申し出て手順を踏んで抜ける事になる。立ち位置が不安定で難しい。

 退去に係る業務の為にホーム事務所で作業している時、その看護師が涙ぐみながらホーム長に訴えていた。

「どうしたらいいか分からない。やっていく自信が無い」と。

 たとさんが入院に至った事に責任を感じているようだった。入院時、病院から「薬は要らない、病院で必要な薬を処方する」と言われて持って行かなかった事を施設長に叱られたらしい。日頃のホームでの薬管理等出来ていない事が見えて手を出したらホームの職員から不満を言われたとも言っていた。ホームには非常勤という立場だし、全てをしてあげられる程の余裕も無い。

 色んな要因が重なって、心が疲れているのが見て取れた。

 退去があれば、入居もある。

 退去が確定すると、次に入居申し込みをしている順番に連絡を取り、自宅へ本人、家族に面談に行く段取りを、ホーム長がしてくれる。管理者も一緒に面談に出かけ、本人、家族と担当ケアマネジャーさんと面談し、入居が決まった。

 決まったと言っても、ご主人が「まだ早い」と拒絶の言葉を発した。担当ケアマネジャーさんによれば、合意する時もあれば拒否する時もあるといい、その日は拒否の日のようだった。「あんな風に言うけど分かっていると思う」と言われ、入居予定者本人の兄弟や息子様等の家族は入居の総意があるとの事だった。楽になりたいと思いながらも家に残るご主人と息子様の事が気になり、ご主人の言葉に揺れてしまう本人を、入居当日迎えに行った際、連れ出すのは難しかった。

 書類や薬を揃え、夜勤者がその日から入力出来るようパソコン内を整える。本部に「入居に係る作業」と届け出てホームでの残業を認めて貰った。夕食時からの入居だったので、食事の後、居室で横になるまで一緒に居た。穏やかに床に入ったのでホッとした。

 夜8時になろうとしていた。

 ホーム長が言葉少なく疲れた顔をしていた。

 私  「お疲れ様ですね。大丈夫ですか? 心は」

ホーム長「・・分からん・・。天然さん、管理者研修行って。わたしゃ、もう・・」

 ホーム長もたくさんの事を抱えている。今年度制度改革で新しく始まった加算業務に手落ちがあった事が判明し、落ち込んでもいた。

 看護師もホーム長も責任感が強く自分一人で抱える傾向がある。

 私がもっと気付いて動くべきなんだと思う。

 気付けない。分からない。なんで? 自分が歯がゆい。

 入居者の体調不良、受診、入院、退去、入居・・・毎日起こる出来事にバタバタしながら誰もがいっぱいいっぱいになっている。

 心を病んでしまうのが一番怖い。