「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

歩いて通勤する人ってどれくらいいるだろう

今週のお題「卒業」

 大学の華やかな卒業式の興奮冷めやらぬ1週間後、先月受けた国家試験2種共合格の知らせを受け、就職の為その3日後引っ越しとなった娘。

 

 新居に着いて車を降りると何やら臭う。

 新居から新しい職場まで歩いて数百メートルなので当然徒歩での通勤となる。

 歩いてみて分かった。

 通勤路側に牛舎がある。

 道行く人や車の往来を眺めている牛と目が合った。大きな優しい目で見つめてくる。

 娘は毎日「牛さんおはよう」と声をかけて出勤するに違いない。そして帰りはその優しい目に癒されて帰る。愚痴をこぼしたいけどきっと文句言われるね。「モ~!」と。

 

 牛さんに名前を付けちゃダメよ。いつドナドナになるか分からないから、情がうつったら悲しい。

 引っ越しの為、自宅と転居先を往復する数日の間に、桜が日に日に開花していくのを車窓から見た。こんな理由でもなければ、こんなに何日も仕事を休めなかった。

 

 大学へなんて行かせてあげられる家計ではなかった。どうしても行きたいと、大学の学費免除制度を利用し、アルバイトで学費を賄い、舅の助けもあって卒業の日を迎える事が出来た。大学4年間で度胸と根性、愛嬌まで備えたようだ。成長した。出会ったすべての人にも物にも感謝している。

「じゃーねー!」とりあえず引っ越しを終え、帰る私達を見送る娘の、お別れと始まりの言葉だった。

 

 散財した。

 私は職場に土産を買って帰り、「もう暫く働かせて下さい」と改めて上司にお願いした。