「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

胴着と帯は白と黒

今週のお題「わたしの好きな色」

 子供が空手を習っていた。中には親子で稽古するケースも珍しくはない。

 大会を見に行った時に不思議だった。

 お母さんの胴着姿が妙に色っぽく、淡いピンク色に見える。

 よくよく見ると間違いなく白なのに。

 

 娘が幼稚園年長の時に、同じクラスの男子が空手を習い始め、園で形をやってみせるのがかっこいいらしく、空手を習いたいと言い始めた。女の子だから合気道はどうかと見学に連れて行ってみたが、本人はなびかない。

 仕方がないので、その子が通っているという空手道場を紹介してもらい、見学させてもらった。

 体も声も大きい師範が、稽古中子供を容赦なく怒る。子供は泣く。すると余計に怒られる。

 稽古が終わって私が見学のお礼を言った際、師範は娘の正面に立ち、大きな声で

「どうか? 次から来るか?」

と問うた。

 向かい合った娘はきおつけの姿勢で師範に向かい合うと背中が反っている。目を見開き、ヒクヒクして言葉が出ない。その日娘は夕飯を食べながら「恐い」と泣いた。

 

 一年生になり、偶然別の友達に誘われ、同じ会派の違う道場に通う事になった。空手を諦めてはいなかったらしい。しかし稽古の様子を見る親としては、小学生がやって楽しいとも思えない。そのうち辞めるだろうと私はたかをくくっていたのだが、娘は小学卒業まで淡々と稽古に通った。中学になっても誘われては時々稽古に顔を出した。

 

 最後の大会の決勝で、娘が空手を始めるきっかけを作った、幼稚園でかっこよかった彼と並んで形競技をする場面があった。 あれから10年になるが、今も私の記憶に残る、素晴らしい画だった。

 娘の擦り切れた胴着と、金糸で氏名、会派名の入った黒帯は、今も娘の部屋にかかっている。

 それは今も昔も白と黒に見える。

 色って不思議。