「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

「居心地が良くて働き易い」理想の介護現場

 昨年末、数か月一緒に働いてくれたパートさんが退職した。

「介護助手」として入職し、掃除、食事の支度、洗濯等、身体介護以外の事をしていた。キッチンカウンターで食事を作りながらフロア自席で突然立ち上がった入居者に

「〇〇さん、ご飯出来るよ」とタイミング良く声をかけて持って行って落ち着かせたり、キッチンカウンターに居ながら「今そっちのトイレは××さんが入ってるよ」等把握して伝えてくれるので助かっていた。目の付け所がいいのに「介護職」をしないのを不思議に思い尋ねてみると「体力に自信がないから」との返事が返ってきた。

 50代後半の彼女は、両親に介護の必要性を感じて「介護職員初任者研修」を受け、介護の基礎を学んでヘルパーの資格を得た。訪問介護事業所に所属し、入浴や排泄等の「身体介護」ではなく、買い物や食事作り、掃除等の「生活援助」を主にしていたと言う。

 そのうち、もっと学ぼうと「実務者研修」を受けたとの事。

 働きながら介護職唯一の国家資格「介護福祉士」を目指す為にこの研修は必須で、医療介護の知識等座学の他、喀痰吸引等の実践項目もあり「サービス提供責任者」としてヘルパー事業所での需要も高い研修である。

 介護に関わる前に彼女は「調理師免許」を持って調理場で働いていたと聞き、納得した。刻み食を効率良く作ったり、その人に合ったトロミ具合で提供したり、介護の現場でその知識も腕も生きている。

 30代、40代、50代になって「介護」に行きついた人は多い。ピアノの先生をしていた人は歌や音楽で高齢者を楽しませ、企業で広報をしていた人は入居者の生き生きとした表情や生活の様子を掲載し家族宛ての新聞を作成してくれる。各々前職が生きている。

 確かに、介護の現場では体力が不可欠だ。

 職員一人で介護は出来ない。介護職と医療、栄養を含めたチームで行う。

 介護技術、介護と医療の知識、コミュニケーション能力、介護保険法、認知症に関しても、学ぶ事は多い。これからの長寿社会に必ず役立つと断言出来る。

 定期的な内部研修が義務付けられており、学べる機会は多い。

 経験年数や知識技術等、職員の差は大きいが、同じ現場で日々経験を積んでいく。

 介護職は専門職。

 自信と誇りを持って仕事をし、向上心を持って学び、資格を得て更にモチベーションアップに繋がればいいのだが、ケアマネジャーになった今も私は時間と業務に忙殺されて疲弊しているのが現状だ。

 お母さんのお世話に専念する為に退職するという彼女の選択を、一緒に働いた私達は尊重する。彼女が「ここは居心地が良くて働き易かった」と言ってくれて嬉しかった。

 いつかまた、働こうと思う時が来たら、私達の所に戻って来て欲しいと伝えた。