「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

等価交換 育児と介護

今週のお題「秋の歌」

「うさぎ追いしかの山・・・」

「私は真っ赤なリンゴです・・・」

 年を重ねても、歌が好きな人は多いし、よく覚えている。

 私は以前、デイサービスに勤めていた。デイサービスは居宅系サービスなので毎日送迎して家人との関わりもあり、そのご苦労を感じていた。施設に入居が決まって少なからず罪悪感を持ちながらもホッとするご家族の姿を見てきた。

 今、施設に勤めて、入居者が自分の部屋とフロアの自分の席でくつろぎ、栄養管理され作って貰ったご飯を食べ、各々出来る手伝いをし、定期的に来る移動販売車で食べたいおやつを買って3時に食べ、テレビを観ておしゃべりをして馴染みのメンバーで紅葉を見にドライブに行き、安心して夜眠る姿を見ている。

 先日、入居間もない80代後半のすゆさんを定期受診の為病院へお連れし、入口で息子様と交代する為に私が車椅子の準備をしている間、息子様はすゆさんに話しかけていた。

「お母さん、ごめんね。こんな事になってしまって、悪かったと思ってる。必ず迎えに行くからね。待っててね」

 驚いた。

私「すゆさんはそんな風には思っておられないと思いますよ」

息子様「そうですかね・・」

 すゆさんは表情を変えず、言葉も発しなかった。

 病院の送迎スペースに一時停車していたのでそれだけ話して受診が終わったら連絡を貰うよう伝えて別れた。

 息子様に日頃の様子を見て貰って安心して頂きたいと思ったのだが、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、面会は短時間で別室で行うので生活の様子は話すしかない。リモートで生活の様子を発信できるといいと思うのだが、この施設ではしていない。

 先日すゆさんは「虹が出ている」と聞いて他の入居者と一緒に建物3階の窓から眺め、「大きいねえ」と目を丸くして喜んでいた。認知症状が進んでいるので、忘れないように虹の話をしながら手を引いて席に戻るまで「いい物見たね。今日はいい事ありそう」等話しながら歩くのだが、席に落ち着いて違う事をすると、虹の事は忘れてしまった。

 

「母さんは将来どうしたい?」

 息子はごく自然に私に尋ねる。

 施設に入れて欲しい。

 でも私の年金だけじゃ足りないだろうから、その分出して貰うのは申し訳ないね。

 私がそう言った時だった。

「俺は20年母さんに育ててもらった。だから母さんも施設に入りたいなら20年入っていい。等価交換だと思ってる。今はね。その時になったら分からんけど」

 そう言って息子は笑った。

 ・・・瞬殺・・・

 その時になったら分からんけど、今私は幸せを感じている。