「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

窒息! 介護職の役割

 一日の仕事を終え、使ったノートパソコンを事務所に帰した時だった。

 バンバンバンバン・・・と音がする。

 何の音? と思い、フロアを覗くと、何か分からない異様な空気。

 入居者の一人が真っ白な顔を硬直させ、職員が背中を叩いている。

 夕飯を喉に詰めて窒息していた。

 背中を叩いても何も出ない。

 口の中には何も無い。

 でも明らかに詰まらせている。

 別事業所から急遽呼ばれた看護師が吸引器のチューブを鼻から入れたり出したりする。

 暫く吸引を繰り返し「ゲホッ」と吐き、「ヒュッ」っと吸った。

 救急要請をした電話の向こうから「あ、今の、患者さんですか?」と聞かれた。

 救急隊が到着した時には荒いながらも呼吸が出来るようになっていた。

 血中酸素濃度が90を切っていた。

 マスクの上に酸素マスクを付けられ、そのまま搬送された。

 誤嚥の心配がある為一晩病院で過ごし、翌日検査を受け、大丈夫との事で午後施設に戻った。

 食事形態は主食は米飯からプリン粥へ、副食は極刻みからソフト食へ変更になった。

 噛む認識が無いのか、吸い込んでむせる。噛むよう促しても数回口を動かし、また吸い込んでむせる。

 主治医に相談すると、食事形態を元に戻すが、念のため職員の数が足りている時間帯に本人にしっかり付いて始めるようにと指示を受けた。

 丸のみしたり、口の中に溜めたりして、噛んで飲み込む事が分からない。

 ちょうど回診に来ていた医師がその様子を見ていた。

私 「数日噛まなかったから噛む事を忘れたんでしょうか? 食事をするうちに思い出して食べられるようになるでしょうか?」

医師「本人の状態が悪くなっているんだと思う。認知症状も進んでる。ゆっくり、少しずつ、声をかけながら食べさせてあげて。これ以上食べれなくなったら・・・ここに居れなくなるでしょうね」

 介護職員も泣きそうになっている。

 自分のこんな介助でいいんだろうか、と。

 数日後、月に一度の職員会議の中で、今回の事案を勉強会として取り上げた。

 誤嚥の可能性は、入居者誰にでも起こり得る。

 食事をしている入居者全員を職員から見える配置にして、目を配る。

 のどに詰まった! となった時、見つけた本人は当人にがっつりついて口の中の物を出す。背中を叩く。みぞおちを押し引き上げる行為は素人には危険なため、推奨しない。

 でも今回のように、それでも詰まったままだったら。

 吸引器がしまってある場所を周知する。吸引器の組み立て方を習う。吸引出来る職員が到着するまでに、出来る事はたくさんある。

 窒息すると、1分の遅れが命取りになる。後遺症が残る事も懸念される。

 食事と入浴は、生活の中でリスクが多い。

 介護職の責任は重大だ。

 窒息した入居者の、あの顔色、あの表情、あの情景が、目に焼き付いて離れない。