「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

入院前にしておく手続き

 同室の隣のベッドに入院になった方は、80代くらいと思しき女性。

 カーテンが常にかかっていても、看護師さんとの話の内容は筒抜けに聞こえる。

 お子様は他県に居住しており、本人は独居。この度の入院も、近所の方に連れてきてもらったとの事だった。入院初日には提出した書類の確認がある。

 健康保険、限度額認定証交付手続きは・・・え? 何それ?

 厚生医療、身障者医療の手続きは・・・よく分からないけど身障者はいいわ。

   歯科にはかかりましたか? 麻酔を口から挿入するのでグラグラしてる歯がないか、歯周病がないか診て貰ってますか?・・・歯医者も関係あるの? 奥の歯がちょっとグラグラしてるけど・・

 生活保護受給してるなら手続きしておけば入院中の食費とかが安くなりますけど・・・え?そんな親切な事、教えて貰ったかしら(1か月入院予定)

 ・・・とにかく、入院するのが一生懸命で準備だけして来たの。困ったわね。どうしたらいい?・・・

 

 そう言われて職員も困っているのがカーテン越しにも伝わって来た。

 入院前の診察では家族もしくは付き添いが必要だったはず。

 入院説明も、資料を手渡され、その資料に沿って詳しく説明されたはず。

 各種手続きについては、慣れない事ばかりで勝手が分からず、私も面倒だと思ったので、独居老人では猶更だろう。

 しかしこの後少しすると、この方はあっけらかんとして、困った様子を見せなかった。

 

 この方は金曜日に入院して月曜日に手術の予定だった。

 入院した金曜日から、土曜、日曜まで日中ずっと隣のベッドで持って来た荷物を出したり入れたりしている様子だった。

 100円玉を使う洗濯機、乾燥機の使い方は理解していて、洗濯ネットに洗濯物をたくさん詰め込んで洗濯機に入れながら「あ、お金忘れた」と病室へ取りに行っていた。

 

 そんな方なので、きっと介護保険は申請も受給もしてないだろうなと思った。

 でも、この方には支援が必要な気がする。本人が必要な手続きを理解していない事も、すぐ忘れて「大丈夫。何も困ってないよ」と誰かに電話で話していた事も気になった。

 話の内容から、以前私が勤めていた市に居住しておられるので、その市の民生委員さんに繋ぐことは出来るなあと思ったのだが、ここで私が余計な世話をするものでもない気がした。

 自分が退院するまでずっと気になっていたのだが、結局部屋替えがあったきり、会う事もなく、今も気になっている。

 多床室も、考え物だ。