「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

認知症と治療のはざまで

80歳台後半のだみさんは認知機能低下が進み口腔ケアが難しくなってきている。

 歯がグラグラしていたため、月に一度の歯科往診の際その歯を抜かれたのだが特に痛みもなく、食事も全介助で変わらず食べている。

 息子様にお知らせすると歯科に通って義歯を作る事を希望された。施設の看護師が歯科に連れて行ったところ、本人は口を開けず、歯科医師や衛生士に大声で暴言を吐いたという。せっかく来たからお口を綺麗にしましょうと言われても激しく拒絶し、看護師は歯科医院で平に謝って連れ帰って来たとの事だった。

 毎月往診に来て下さっている歯科医師なので認知症に対する理解があり、治療は無理な事、残っている歯で食事は可能で食事形態も今のまま継続し、嚥下に問題はなさそうなのでこのまま様子をみるよう言われた事等、歯科受診の様子と共に息子様に伝えた。

 

 最近2本続けて歯が抜けた大正生まれのだたさんも、娘様に伝えると同じように義歯をつくり変えるよう希望され、施設での対応を望まれている。

 思い込みから怒る事が増えただたさんもまた、だみさんと同じようになる事が予想されるが、娘様の意向をそのまま受けた。

 受診してうまくいかなければそれをそのまま娘様に伝える事になるが、出来る限り家族の意向に沿う形をとる。

 

 本人の為にと家族も施設もすることが、認知症の本人が望む事とは限らない。

 嫌な事を嫌だと感情を表出するその人に対し、今我慢して治療をすれば良くなると伝えるのは無意味な事なのかもしれない。

 家族も辛いと思う。

 施設も同じだ。