試験が近いと、教室の中がピリピリしている。講義の中で、試験に出る箇所を、講師が「出る」と言うと緊張が高まる。この日の単元は300ページ以上あるテキストを5回の講義で終わるため、結構なペースで読み進めていた。
「ちょっといいですか。」
最後列から声。
「こんなタラタラ読んでて、どこが重要なのか、テストに出るのか分からないんですけど」
威圧感のあるその大きな声に、教室中が凍りついた。
講師は慌てる風もなく「テストに出す所は言いますから」
と言って、続けた。
それで終わった・・・誰も、それで忘れたのだが・・・
隣のFっちは「始まった」のだ。
うつ病とパニック障害を持つFっちは、落ち着かなくなった。
呼吸が速くなって、震える。
「怖い」「もう嫌だ」「帰りたい」と言い出した。
弁当が喉を通らない。
持ち歩いているたくさんの薬携帯ケースから、いつもより多く出して飲んでいる。
案の定、午後は壊れてしまった。
ほとんど意識がない。
「大丈夫?」と声をかけると、
「・・・帰りたい・・・」
講義どころではない。でも、帰って早退レポート書くより、講義を受けることを選んだ。講師はFっちのことは承知している・・・はず。自己紹介した時に記録していたから。
帰りの車中、乗り合わせた3人で、講義を受けさせてもらっている自分達の立場を再確認した。
帰宅して家人に話すと、自分が巻き込まれていることを気遣ってくれた。自分にとって、教室が凍りついた一瞬よりも、その後隣のFっちの様子が気になる方が大問題なのだ。自宅でもFっちの様子はよく話題に上らせている。
一つ教室の中、色んな人がいて、色んな考えがあって、でもその根底には、合格修了という共通目標。