「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

世代による感覚の違い

 春に新人職員として同系列他部署に新卒で10代のきゆさんが入職した。が、1か月位でうちの部署に異動になった。早番、遅番の仕事内容を記した紙を渡し同行を付けてここでの仕事を教えた。

 無表情。言葉数が少ない。声が小さい。雑。余裕こいて立ってる事が多い。紙に書かれている最小限の仕事しかしないので、ペアになるとこちらが忙しい・・・

 職員からの不満の声を受け、リーダーが改めて同行して少し先の時間を見越した段取りを教えたり、面談したりしながら、ここの部署で半年続いている。

 確かにきゆさん一人に余裕がある事が多い。こちらばかりがバタバタしてしまうのだが、私はきゆさんの、誰ともつるまない、陰口を言わない、慌てない、こちらから頼めばするし、決まった仕事はきっちりやってさっさと帰る姿勢を買っていた。

 秋になってメンタリングプログラムが始まり、私がメンターに指名された。

 他の誰もきゆさんに対し冷静にメンターをする自信が無いと言った。

 

 きゆさんと「面談しようね」と日にちを決めた事もあったが、時間の余裕が無く実現出来ずにいた。

 

 そのうち、先月入職したばかりの20歳のたなさんのメンターだったられさんが「メンター変わってもらえませんか」と言いに来た。

「私、もうあの子ムリです」

 前日られさんはたなさんの同行に付いて風呂介助等を教えていたのだが、一人風呂介助が終わった時点で、たなさんは私の所に頭痛があるので帰りたいと言いに来た。

 同行のられさんには伝えてあるかと問うと「まだです」と言う。

 られさんは早退するのに挨拶もなかったと立腹していた。

「まだです」と聞いた時点で、られさんに挨拶と同行の礼を言って帰るよう私から伝えなくちゃいけなかったんだと後から思った。

 たなさんはその日夕方、リーダーに電話で辞めたい意向を伝えたらしい。ホーム長とも話して、早退したその日を限りにたなさんは退職した。

 入浴介助は何度か経験していたのだが、まだ手際は良くなかった。何度も立ったり座ったりさせるものだから入居者が「もう立たん!」と怒ったため、同行のられさんがささっと入浴を進めてたなさんに見せたという。

 施設の食事のうち、おかずは外注の厨房で作って貰えるのだが、ご飯と汁物は入居者の人数分を職員が作っている。たなさんは汁物の作り方が分からなかった。

 リーダーが夜勤明けのまま夕方までぴっちり傍について仕事を教えた事もある。

 リーダーは入居者一人一人の状態や食事、入浴、トイレ介助の仕方を細かく記した紙を一晩がかりで作ってたなさんに渡したのに「見てません」と言われてショックを受けていた。ストレスで口内炎が4つもできたとも言っていた。新人を対象に実技も時間外に教えているのだが、

「覚える事が多すぎて、見る暇ないんだって。実技も全部忘れたんだって。そんな事、言える? 介護って、もっと簡単にできるものと思ってたみたいやね」って。

 それもあるけど、期待や熱量が多すぎたんじゃないかと私は思っている。

 

 きゆさんたなさんが入居者の傍で会話していたのを聞いた事がある。私達に対するのとは違う空気感があった。年が近い職員が入って、きゆさんにとっても良かったと思っていたのだが。

 

 たなさんの事があって、世代的な感覚の違いがあるような気がしている。

 でもそれを思えば、きゆさんは頑張っている。

 きゆさんにステップアップしてもらおうと、夜勤を始めようかとの話をしてから、きゆさんに少し変化がみられている。やる気が出てきているような。動きも良くなっている。

 この、本人から自然に出てくる変化がいい。

 若者らしいパワー。

 ちょっと、期待している。