「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

わかさんの入院

わかさんの入院が決定した。

 80代後半のわかさんは帰宅願望、幻想幻聴、作話、被害妄想があった。

 耳だけじゃなく頭全体で音がすると、わかさんは幻聴を説明した。

 とても辛そうだった。

 無関係な人や物に立腹することが増えた。

 職員だけに留まらず他入居者に影響が及んだ事もあり、受診して薬を調整されている。 

 

 帰宅願望がなくなった。
 幻想幻聴も言わなくなった。
 作話も被害妄想も無い。

 

 でもご飯を食べなくなった。

 言葉を発しなくなった。

 表情がなくなった。

 

 これを薬の効果というのか。

 求めていたのはこの姿なのか。

 尋ねてもわかさんは辛いとは言わない。

 職員の手を握って放さない事が増えた。

 思いを尋ねるとじっと目を合わせたまま何か訴えたい様子なのに言葉は出てこない。

 

 受診の度に症状を医師に説明し薬を調整される。薬が効きすぎたのかと減らしても症状は変わらない。

 

 栄養補助食品を提供しても、食事と同じように拒む事も増えた。

 水分摂取量も少なくなった。

 施設で出来ることは限界にきた。

 

 医師も看護師もリーダーも淡々としている。

 私は未熟なのか。

 

 わかさんは機能的には体のどこも悪くない。

 入院加療で楽になれるのなら、今がそのタイミングなのか。

 加療目的なので長期入院が予想され、施設は退去の手続きを取る。

 

 息子様も定期受診に付き添い、お母様の変化にとまどいながらも現状を受け入れざるを得ない状況にある。本当はもっと頻繁に面会したかっただろうに、この世界情勢では許されなかった。

 記録に残し、申し送り、医師、看護師、職員、家族と出来る限り現状を共有し、その時その時でベストと思われる方法を取って来た。元々多かったが、ここ数か月のわかさんの記録量は他の誰よりも膨大になっている。その結果、入院の運びとなった。

 

 ケアマネジャーは感情移入はご法度と言われる。鬱や離職の原因ともなる。

 私はケアマネジャーとして失格かもしれない。

 施設なので常にこの場で多職種と連携出来る事が私自身を守ってくれているのかもしれない。