「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

騒動と心の板挟みで

 夜勤が明けて二日休み、気持ちが少し落ち着いて早番で出勤した朝、私の事務机の引き出しに介護保険証が封書ごと入れてあった。入居者家族が早速お持ち下さったのだと分かった。

 早番で慌ただしく朝食の介助をしていると、日勤の職員が子供さんが発熱した為欠勤との連絡が入った。夜勤が帰るに帰れない。

 パートの看護師が出勤してきた。今日は入居者のこの先10日分くらいの薬を準備したいと言うが、夜勤が帰らなくてはいけない。日勤職員が急遽休んで私一人では入居者皆の動きに対処出来ない為、遅番が出勤してくるまでフロアを手伝って欲しいとお願いした。何を置いても入居者優先の鉄則があり、看護師の薬準備も、私の事務も後回しになる。

 遅番が出勤してから看護師に礼を言い、薬の準備にうつってもらった。

 ホーム長には、早番の仕事が終わってから入居者家族がお持ち下さった介護保険証を登録、支援計画書を作成、発送事務をするために1時間だけ残業させて欲しい旨お願いして承諾を得た。

 遅番と2人でてんてこ舞って早番が終わり、事務をした分超過勤務が付いた。

 

 翌日は遅番だった。遅番の主な仕事は入浴介助。

 前日休んだ日勤者は、子供さんの熱が下がって出勤していた。早番と日勤パートがおり、前日の倍の人数がいる。フロアは任せた。

 午前中入浴予定者の体調を見ながら入浴やシャワー浴をし、昼過ぎに月に一度の訪問歯科があるので準備はしたが、その後入居者の定期受診を予定していた為、歯科はフロアにいる職員に頼んでホーム長に伝え、私は受診に出た。

 

 本来受診は本人に家族、又は職員が付き添う形でするのだが、コロナ騒動の為、再診には本人は来れなくても状態が分かる者で良いと医師に言われているので、息子様と職員が受診して状態を説明し、薬を出してもらっている。

 施設は鎖国状態で面会が叶わず、息子様も今は本人の状態は分かっておられない。

 病院で待ち合わせ、待ち時間中に前回受診してからの支援経過記録をこちらからお持ちして目を通していただき、医師と話をする内容等を話しておく。

 受診後息子様が薬局で薬を受け取って施設へ届けて下さった。

 施設前の駐車場から電話を受け、薬を受け取りに行った。

 帰り際、息子様は数秒施設を見上げ、自分に言い聞かせるように何度か頷き、車に乗り込まれた。実はこの時私はホーム長に本人を駐車場まで連れて降りれないだろうかと相談していたのだが、「うーん、ちょっと・・・」という返事だったのだ。

 やはりそうだった。

 息子様は一目母親に会いたかったのだ。

 心が痛んだ。