「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

家族との信頼関係

80代のわかさんは、幻想、幻聴、作話、被害妄想が顕著で、風呂嫌い。

家族も職員も困っていたのだが、週に一度回診に来る、主治医ではない医師の

「精神科を受診してみたら?」という言葉により、一歩前に出る事が出来た。

 

 初診には主治医からの紹介状を携え、本人、息子様に看護師が同行した。

 2度目の受診となる今回、私が同行するにあたり、心配な事があった。

 きっと息子様が知らない、母親の良くない部分を医師に告げる事になる。

 受診前に、前回受診後からの変化や薬の種類を変えて欲しい等の要望を、わかさんに関わる職員ほぼ全員と話し合って取りまとめた。

 前回受診日以降の支援経過記録をプリントアウトして読み直していた。

 午後受診する日、午前中に息子様が順番を取りに行くにあたり、施設にも立ち寄って下さったので、少し時間を頂き、支援経過記録をお見せして今日医師に話そうとしている内容をお伝えすることが出来た。愕然としながらも、その記録により納得された様子だった。

 

 3人で診察室に入り、まず医師は本人に話しかける。・・・的を得ない。

 実際の所どうかと、こちらに質問が来る。

 予定通りの内容を話す。

 医師から入院加療か一週間毎の通院の選択肢を示され、息子様は

「え? そんなに? いや、入院するほどじゃ・・・」

 予想通りではある。

 息子様と一緒の時は普通のお母さん・・・ちょっと忘れっぽいけどって感じだろうと思う。その気持ちを思うとこちらも複雑になる。

 

 医師から現在の状況なら一週間毎の通院がベストだろうとの見解を頂き、本人は来なくても状況が分かればいいと言われ、息子様が「毎週はきつい」と言われた事もあり、次回は職員だけが受診(?)する事となった。

 

 口数の少ない息子様だが、気持ちは伝わってくる。

 医師、職員の考えと息子様の思いとに、少しズレとも距離とも言えないものを感じる。

 それでも次週の受診は任せて下さった。

 それだけでなく、今回の同行の料金や次回の受診代行の料金を問われ、考えた事も無かったので逆に驚いたし、嬉しかった。居宅とは違い、施設では頂いていない。

 今後一週間のわかさんの様子や受診の内容を、来週お伝えしますと息子様に約束した。

 

 家族との信頼関係は大切にしたい。

 本人、職員、施設、家族の間に立つ立場になって、入居者本人に対する見方も変わってきた。

 大切な家族をお預かりしている。

 健康、安心、安楽な余生を求めて施設に入居する。

 それは決して簡単なことではない。