「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

即位式の朝に

 夜勤が明けて朝、フロアの大型テレビをつけてみると天皇陛下即位式でもちきりだった。

 起きて来た入居者に、今日新しい天皇陛下が即位される事を説明する。

 「へえ」と言われるが、数分後には忘れて、また説明する。

 「へえ」と言われる。いつも新鮮。

 80~90歳代の入居者にとって「天皇陛下」は昭和天皇であり、「平成」にはこのまえ変わったばかりで「令和」においては年号が変わった事さえ認識が無かったりする。

 美智子上皇后は自分達世代の憧れの「美智子さま」で、皇太子妃だった美智子さまが皇后時代を経て今や上皇后となられた事も理解は怪しいというか、あえて理解する必要は無いのかもしれない。

 雅子様十二単のお姿が画面いっぱいに映し出された瞬間、画面の横に立って同じおすましスタイルをしてみる。これはウケた。すかさず新しい皇后さまのお姿だと画面を指すが、

「え?何が?」既に画面は変わり、入居者は私を凝視して笑っていた。

 時代の流れは早すぎる。

 入居者の時間はとてもゆっくり流れているのに。

 90歳過ぎの大正生まれの入居者は、昭和、平成、令和の時代を生きている。

 かまどでご飯を炊き、まきでお風呂を沸かしていたんでしょう?と尋ねると

「そうそう、そうじゃった」と言う。「いつの間にか変わった」とも。

「生活するのが必死じゃった」

 変わりゆく生活環境に順応しながら懸命に生きて来た人達だ。

 昭和も、平成も、そして令和も、即位式には天皇皇后両陛下はこの装束をまとわれたのだと思うと、テレビを観ながら不思議な気がした。