「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

やっぱり日本が一番

今週のお題「人生最大の危機」 

 新婚の1年間をアメリカカリフォルニアで過ごした。国際免許証は1年で期限を迎えるため、滞在期間中に切れてしまう。渡米してすぐ自動車学校に行き、日本語で試験を受けて合格したのだが、カリフォルニア州都から送られて来たのは仮免許証だった。

 これでは正式な身分証明書にはならないため、この仮免許証とパスポートを常時携帯する羽目になった。

 そのころ日本の大学院生だった弟が一人で海を渡り遊びに来た。大学の図書館で本を買いたいという。弟を助手席に乗せ、大学へ向かった。学内の駐車場で、空いているスペースに停め、少し歩いた。

 広大な敷地、リスが走る木陰、そして図書館に入るとまたその広さと膨大な量の書籍に圧倒された。係らしき人に弟は欲しい本の題名のメモを見せ、探してもらい、購入していた。

 そして車に戻った時、事件は起きた。

 車のワイパーに、黄色い紙が挟んである。何これ?

 どうしたらいいのか分からない。

 その紙を持って学内の事務所らしい所へ行ったが、そこではどうしようもなく、その黄色い紙に書いてある住所へ行くよう指示を受けた。

 アメリカでは通りの名前と番地が分かればたいがいその場所に辿り着ける。交番だった。弟が、学内の駐車場に停めた時にこちらを見ている人がいたと言った。どうやら契約者専用の駐車スペースに無断駐車してしまったらしいという事に思い至った。駐車禁止を貼られたのだ。

 弟には車で待っていてもらい、一人でその紙を持って交番に入ると、黒人の体の大きい女性ポリスが一人でいた。紙を見て、私の顔を見た。アメリカで事故を起こした場合、絶対に自分から謝ってはいけないと言われていた。しかしこの場合、相手はいない。

「ごめんなさい。知らなかったんです。車を置いていたのはほんの数分だったんです。」

と必死で言った。かなりたどたどしい英語だったと思う。

 すると女性ポリスは、

「OK。今7ドル払うならいいよ。」

と言う。その紙に書いてあるペナルティは26ドルだった。その場でディスカウント!?

 自分の聞き間違いか、理解不足かと思いながら財布から7ドル出してなお、しっかり握っていたのだが、それを見て彼女は7ドルの領収書を作ってくれた。お互い確かめるように現金を渡し、領収書を受け取った。

「That's all!」彼女はそう言い、私は

「Thank you」と言って交番を出た。

 車に戻り、事の顛末を弟に話しながら帰路についた。

「は⁉ ねえちゃん、英語で嘘をつく」と弟は驚いていた。

 そう、Just a few minuts ではなく Just a few hoursだ。

 

 自宅に帰り夜仕事から帰った主人に話し、手書きの領収書を見せると

「大丈夫か、俺はようやらん!」などと言っていたが、じゃあ、どうすべきものなの? 

 

 その頃私は毎日近くのハイスクールの中である、外国人向けの英語教室に通っていた。講師に驚かれた。罰金払わなきゃ Go to jail だと。その払い方を教えてくれたが、自分のした事のとんでもなさが分かり、その時講師に言われた事を覚えていない。そんな状態で車を運転している自分が遅まきながら恐ろしくなった。

  

 帰国の時期が近くなると、早く何事も無く日本に帰りたいと思うようになった。

 帰りの飛行機はJALをお願いした。

 日本人のCAに迎えられ搭乗した時の安堵感と言ったらなかった。