「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

今週のお題「七夕」

利用者に季節を感じていただくことも、介護業務の大切な役割の一つである。七夕もまた、大切な季節の行事。
 
 職員が笹の木を切って来て、皆で願い事を書く。
 書いたことを忘れる。
 そもそも、七夕とはなんぞやと、理解が出来ない。
 お話を読み、説明しても、その後願い事をするころには、始めの話を忘れている。一週間前から、毎日毎回七夕の話をするが、その度初めて聞くかの如く新鮮な表情をされる。


 96歳の彼女は旦那様のことが大好き。
 お互い再婚同士だが、相手は息子と2歳しか違わないほど若い。若いといっても70代だが。
 短冊にも
「パパとずーっと仲良くしたい」
と書いた。パパのどこが好き?と尋ねると、「全部」と答える。
 
 年をとると、眠る時間が長くなる。
 デイに来ても、椅子に座って居眠りする。
 時々目を覚まして
「・・・パパ・・・」
とささやくように呼ぶ。

 午後眠気が強く、座っていては危ないのでベッドに横になってもらった。傍にいた職員がたまたま20代の男性作業療法士だったのだが、彼女は
「飴ちょうだい」
と彼に言って
「だめ!」
と返されて「うえーん」と泣いた。
 
 それから暫く傍を通る職員に
「飴ちょうだい」
と声をかけては、もらえずにいた。


 暫く繰り返して、本当に眠くなり、
「・・・パパ、あめ・・・」
と、つぶやいて横向きに小さくなって眠った。


 目が覚めると、
「ここはどこ?」
 飴のこともパパのことも忘れている。


 帰るときも
「パパのところへ行こう」
と誘うと
「うん」
と言って立ち上がり、両手引きで歩く。



 認知症の利用者と接しながら、幸せって何だろうと思う。